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ブログBlog

2025.08.01

『ニュースの数字をどう読むか

–統計にだまされないための22章』

トム・チヴァース (著), デイヴィッド・チヴァース (著), 北澤 京子 (翻訳)

日経BP (2022/2/9) 968円

 

【感想】

トム・チヴァースはイギリスの科学ライターで、合理的思考や統計に関する著作で知られ、Royal Statistical Society賞を複数回受賞しています。いとこのデイヴィッド・チヴァースは経済学者で、不平等や経済成長が専門です。そんな二人が共著として、ニュースに登場する統計の読み解き方や誤解を防ぐ視点を平易に解説し、統計リテラシーの重要性を広めた書が本書です。ジャーナリズムと学術の橋渡しとして高く評価されています。

本書でもたびたび取り上げられていますが、新型コロナは3年間で約7万5千人の関連死があったとされる危険な病気です。では、この数字だけで本当に「危険」と言えるのでしょうか?国立社会保障・人口問題研究所がまとめた『人口統計資料集2025年度版』によると、肺炎による死亡者数は2017年に9.6万人、2018年に9.4万人、2019年に9.5万人と推移しています。これに対して、コロナ禍における肺炎死は、2020年に7.8万人、2021年に7.3万人、2022年に7.4万人、2023年に7.5万人と、年間でおよそ2万人の減少が見られます。新型コロナウイルス自体は、突然生まれたものではなく、過去にどのように関連死が推移していたかについては、データが存在しないため把握できません。しかし、厚生労働省の発表によれば、コロナ関連死の90%以上が60代以上であることを踏まえると、従来はその多くが肺炎としてカウントされていた可能性があります。そう考えると、経済活動や教育を犠牲にしてまで、長期間にわたって社会全体を大きく制限する必要があったのかについては疑問が残ります。数字は非常に強力なツールですが、正しい視点で読み解かなければ、かえって誤解やミスリードを招く恐れがあります。企業経営にとっても欠かせない情報である一方で、いきなり理解するのは難しいものです。本書のように、身近なテーマを通して数字をとらえ直すことの重要性を感じていただける、価値ある一冊だといえるでしょう。

 

【以下、引用】

1944年、アメリカの爆撃機は敵兵と対空砲火によって定期的に爆撃され、その多くが破壊されました。なのでアメリカは自軍の飛行機を装甲で強化したいと考えました。そこで帰還した飛行機のどこが損傷を受けたかを調べました。

生存者バイアスにはもっとありふれた例がいくつもあります。いちばんわかりやすいのはたぶん、ビジネス界のリーダーが書く、私の成功の秘訣タイプの本です。私たちは皆、どうすれば大金を稼げるかを知りたいと思っているので、この種の本はたいていよく売れます。しかしそれらは通常、単に生存者バイアスの例を並べているだけです。

経済学者のゲアリー・スミスは自著「標準偏差」で、業績のよい54の会社を比較検討し、これらの会社に共通する特徴を抽出した2冊の本を考察しました。スミスは、これらの企業は、本が執筆されるまでは確かに市場で素晴らしい業績を上げていたが、出版されてから何年か経つと、ほぼきっかり半数が株式市場の評価を下げ始めた、つまり平均的な企業より業績が悪化していたと指摘しました。優れた企業文化を褒めちぎったこの2冊は、着陸した飛行機を見て、対空砲火による損傷がどこにあるかを見ていただけで、決して帰還することのなかったすべての飛行機で何が起きていたかは考えもしなかったのです。

 

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2025.07.02

 

『中小企業の財務の強化書』

古田土満(著), 川名徹(著)

日経BP (2024/12/28)  1,980円

 

【感想】

著者は、監査法人勤務を経て1983年に独立。税理士法人古田土会計および株式会社古田土経営を設立し、現在は会長を務める。中小企業の経営支援に特化し、数字を“見せる”ことで経営改善を促す「古田土式月次決算書」や「経営計画書」の活用を推進。36期連続増収、年商20億円超を達成するなど、会計事務所経営の成功モデルとして注目されている。著書も多数あり、実践的な内容が経営者から高く評価されている。2024年には長年の中小企業支援の功績により「旭日単光章」を受章。数字に強い社長を育てることを使命に、今も現場での支援を続けている。そんな著者が中小企業経営者向けに書いた一冊です。

今から10年以上前、私がこの業界に入ったばかりの頃、勝手に「師匠」と仰ぎ、中小企業の経営分析の手法を学んだのが古田土満先生でした。当時から、税理士業をはじめとした士業は、長期的にはAIに代替される可能性が高いと考えており、その中で「どのような価値を新たに創造していくか」が起業時の課題でした。そんな中で出会った古田土先生の手法は、机上の空論ではなく、現場に根ざした非常に実践的なものであり、中小企業にとって本当に役立つ内容でした。私はこのアプローチを取り入れ、さらに中小企業診断士としての視点から経営改善手法である「ビジネスモデルキャンバス」(※先月のブックレビュー参照)と連携させることで、“経営”を見せる、より実効性の高い支援方法へと発展させていきました。中小企業経営者にとって本当に基本になる考え方です。ぜひ読んでいただきたい1冊です。

 

【以下、引用】

初めてお会いした経営者には、必ず「月次決算」をお勧めしています。「経営のかじを取るために、毎月、損益計算書や貸借対照表、キャッシュフロー計算書を出して月次決算をしましょう。

なぜ売上原価と販管費ではなく、変動費と固定費に分けるべきかというと、ほとんどの会社では当月の売上高や利益しか見ていないからです。経営に必要な情報は、売上高の増減や粗利益率の増減により経常利益がいくら増減するか、何%増減するかなのです。

経営のかじ取りをするために、いま事業がどうなっているのかを見るのが月次損益計算書、会社の財務状況はどうなっているかを把握するのが月次貸借対照表、さらに手元にある現預金とその出入りがどうなっているかを知るのが月次キャッシュフロー計算書です。

損益計算書の目的とは利益です。…利益計画の利益と実績を毎月チェックし、一致させることです。当月の実額値だけでなく「計画値との違い」も見て原因を探り、問題があれば対策を打つのです。

貸借対照表は会社の財務体質を表す健康診断書です。常にチェックして体質改善に努めていく、会社の財務状態を健康にしていくことは経営者の大事な仕事です。

 

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2025.06.02

『ビジネスモデル・ジェネレーション ビジネスモデル設計書』

アレックス オスターワルダー (著), イヴ ピニュール (著)

翔泳社 (2012/2/1) 2,657円

 

【感想】

アレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールは、ビジネスモデルの設計や戦略的イノベーションの分野において、世界的に著名な研究者・実務家コンビです。世界各地の大学や研究機関でも客員教授として教鞭をとり、多くの研究成果を発表しています。また、戦略系の思想家ランキング「Thinkers50」にもランクインし、同賞の「Strategy Award」を受賞するなど、国際的な評価を受けています。この二人の協働によって生まれたツールや理論は、大きな影響を与えており、今後もその活用範囲は広がり続けると期待されています。そんな二人がビジネスモデルを視覚的にとらえられるようにと考案したのが本書です。

私がコンサルティングに活用するときに最初に使うフレームワークが「ビジネスモデルキャンバス」です。ビジネスモデルキャンバスは、会社経営の全体像を一枚のシートで見える化し、現状を客観的に把握・分析・修正できるという点で非常に画期的なツールです。特に中小企業においては、ヒト・モノ・カネの制約が大きく、限られた経営資源の中でいかに価値を生み出し続けるかが生き残りの鍵となります。その中でも「カネ」、つまり財務・収支などの数字との相性が良いこのフレームワークは、感覚や経験だけに頼った経営から脱却し、数字に基づく戦略的な判断を可能にします。資金繰りを日々意識する中小企業経営者にとっては、まさに必須の道具です。本書では、そのビジネスモデルキャンバスの基本的な使い方に加え、中小企業やスタートアップにも応用できるような視点が豊富に盛り込まれています。うまく活用して儲かる会社を目指しましょう!

 

【以下、引用】

ビジネスモデルとは、どのように価値を創造し、顧客に届けるかを論理的に記述したもの。

ビジネスモデルイノベーションの出発点は、ビジネスモデルについての共通理解です。これがなければ議論ができません。全員が同じスタート地点に立ち、同じ言葉を使う必要があるのです。そのコンセプトは、シンプルかつ直感的に理解できる一方で、あまりに単純化しすぎてもいけません。このコンセプトを共通言語として使えば、ビジネスモデルを簡単に表現し、活用できるだけでなく、新しい戦略立案もできます。逆にこのような共通言語なしには、ビジネスモデルについての仮説を検証することも、イノベーションを起こすこともできないでしょう。

・・・・・・・・

価値提案とは、顧客の抱えている問題を解決し、ニーズを満たすもので、顧客がなぜその会社を選ぶのかと言う理由になります。価値提案は特定の顧客セグメントが必要とする製品とサービスの組み合わせであり、起業が顧客に提供できるベネフィットの総体と言えます。

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その中小企業の経営者は、瀬戸際になるまでビジネスモデルを変えようとしませんでした。ビジネスモデルイノベーションへの最大の障害は問題がはっきりと見え、修正が必要となるまで、あらゆる変化に抵抗する人々です。

 

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2025.05.07

『論語』

齋藤 孝 (翻訳)

ちくま文庫(2016/10/6) 1,100円

 

【感想】

1960年静岡生まれ。明治大学文学部教授。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。『身体感覚を取り戻す』で新潮学芸賞受賞。『声に出して読みたい日本語』がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。著書に『読書力』『コミュニケーション力』『古典力』『理想の国語教科書』『質問力』『現代語訳学問のすすめ』『雑談力が上がる話し方』等多数。TBSテレビ「情報7days ニュースキャスター」等テレビ出演多数。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導。そんな著者が1年半の時間をかけて解釈をしたのが本書です。

論語にはさまざまな解釈があり、正解は存在しません。だからこそ、自分なりの解釈を見つけることが大切です。そのためには、複数の書籍を読み比べ、さまざまな解釈に触れたり、孔子が生きた時代背景を理解したりする姿勢が求められます。そして、やはり大切なのは、

「学びて思わざれば則ち罔し。思いて学ばざれば則ち殆し。」

という教えです。孔子は「敏ならんと欲す」とも語っており、現代の経営者にとっては、この“学びと思考”に加えて、“行動”を重ねることが肝心です。細井平洲の言う「学思行相まって良となす」という姿勢こそ、実践に結びつく本質的な学びだと思います。さらに高みを目指すならば、

「之を知る者は之を好む者に如かず。之を好む者は之を楽しむ者に如かず」

という言葉に示されています。日本語で言うところの「好きこそものの上手なれ」に通ずるところがあります。

 

【以下、引用】

『論語』は、現代日本でまさに「今」読まれるべき本です。現代日本では、さまざまな問題が山積みになっています。しかし、その根本の原因は、と考えると、それは精神的なより所がない、というところにあると思います。心がゆらぎやすく、折れやすくなっている。心がゆらぐのは、まだいいのです。ゆらぎには、柔軟性と言う一面もありますから。けれども、「折れる」のはまずい。「精神の基準」がなくなってーなくなってというか、液状化してしまってーその帰結として、経済状況の悪化などと言う事態が出てくる。逆に言えば、精神の基準があって、それを軸に前を向いて学んでいけば、たとえば国際競争力だって、これはむしろ高まらざるをえないくらいのものです。

では、その精神を培う基準というものをどこに求めるか。そのひとつが、『論語』だろうと思います。

・・・

ところで、『論語』を「精神の基準」とするときに、いちばん核になる考え方と言うのはなんでしょうか。私は、それは「学ぶことを中心として人生を作り上げていること」だと思います。今回、『論語』を訳していて、いちばん共感したのも、まず、この点でした

 

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2025.04.01

『知能とはなにか』

田口善弘

講談社(2025/1/23) 1,012円

 

【感想】

著者は、1961年東京生まれ。中央大学理工学部教授。1995年『砂時計の七不思議』で講談社科学出版賞受賞。以降、機械学習を活用したバイオインフォマティクス研究に従事し、2021〜2024年に「世界で最も影響力のある研究者」トップ2%に選出。近年はテンソル分解研究に注力し、2019年に英語の専門書を出版。著書に『生命はデジタルでできている』『はじめての機械学習』『学び直し高校物理』などがある。そんな物理学者が生成系AIの本質をもとに生成系AIと知能について書いた一冊です。

生成系AIはChatGPT以降、「なにかすごい存在」として捉えられがちです。ところが実際には、物理学者たちが20世紀末に盛んに研究していた「非線形・非平衡・多自由度系」を用いた、いわば“世界シミュレーター”に過ぎないのだと言います。しかも、その中身―たとえばLLM(大規模言語モデル)であれば―は、単に「言語と言語の距離をマッピングしている」にすぎません。生成系AIとは、人間とは構造の異なる世界シミュレーターである以上、人間のような「自我」を持つことはない、と著者は指摘します。とはいえ個人的には、「もしこのマッピングが限界を超えるほどに拡大されたら(実際には利用可能な情報が不足する)、人間とは異なる形で“自我”のようなものが生まれることはないのだろうか?」という疑問が湧きますが。そうした想像はさておき、本書は「生成系AIが実際に何ができて、どこまでできるのか」を、誇張も過小評価もせず、リアルに捉えるきっかけを与えてくれます。そして大切なのは、その現実を冷静に受け止めたうえで、これからの生活や仕事にどうAIを活かしていくかを考えることです。未来に振り回されるのではなく、AIを道具として上手に使いこなす――そのための第一歩になる一冊だと思います。

 

【以下、引用】

生成AIがロボットにもたらしたインパクトはいろいろあるが、その一つはなんと言っても視覚の獲得だろう。・・・工業用ロボットはかなり前から実用化されていて製造ラインのオートメーション化に大きく貢献してきた。だが、そこにはある大きな限界があった。ほぼ定型の同じ作業しかできないということだ。・・・それはなぜかと言えば、ロボットが教えられていたのはカメラの画像がこうなったら手を伸ばしてつかめ、というルールだけであって、それが「ラインを流れてきた部品だ」と認識する世界モデルに基づいた行動ではなかったからだ。

・・・

だが、よい世界シミュレーターである生成AIは、入力された画像データをもとに特定の物体を選び出したり、的確な3次元配置をロボットに教えるみたいなことが可能になった。このため、ロボットは、全く未知の状況でも世界を認識して行動ができるようになった。

 

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