求職者が求人を探すとき、最初に目にするのは一覧画面に表示されるタイトルです。これは言うなれば“第一印象”のようなもの。ほんの数秒で「これ、気になる」と思わせられるかどうかがすべてです。ただし、タイトルだけで応募が決まるわけではありません。興味を持った求職者は、必ず求人本文を読み込みます。仕事内容、職場の雰囲気、待遇、求める人物像……。ここに“納得感”がなければ、どんなに魅力的なタイトルでも応募には至りません。
つまり、タイトルで得た「関心」を、本文で「信頼」へと変換する。この2段構えがあって、初めて“読まれる求人”から“選ばれる求人”になるのです。
たとえば、タイトルに「在宅勤務OK!柔軟な働き方」と書いてあったのに、本文を読むと「基本は出社、在宅は応相談」と書かれていたらどうなるでしょうか。求職者は裏切られた気持ちになり、すぐにページを閉じるでしょう。これは、単なる記載ミスでは済まされません。「ああ、この会社は応募者を釣るためにいい加減なことを書いているのだな」と受け取られてしまうリスクがあるのです。タイトルと本文の整合性は、思っている以上に重要です。
AIで本文を作成する場合も、「自動で出力される内容に任せきり」では、こうしたズレが起きがちです。タイトルで「自由な職場」とうたっておきながら、AIが生成した本文が「チームワーク重視」「細かいルールあり」のような内容になっていたら逆効果です。実は、本文こそAIが最も力を発揮できるパートです。論理的に文章を構成し、わかりやすく分かち書きをしてくれる点では、人間以上かもしれません。特に中小企業では「文章を書くのが苦手」「表現が毎回ワンパターンになる」といった悩みを持つ方も多いでしょう。そこをAIがカバーしてくれるのは非常に大きなメリットです。さらにAIなら、求職者目線の言葉を意識した表現も得意です。「アピールポイントを入れて」と指示すれば、職場の特徴をうまく抽出してくれますし、「20代向けの文体で」と言えば、それに応じた柔らかいトーンに変えてくれる柔軟性もあります。
ただし、最後の仕上げはやはり人間の役割です。AIがどれだけ自然な文章を作っても、「この言い方はうちの会社っぽくないな」と思う部分はあるでしょうし、「本当はこうじゃない」といった事実とのズレもあるかもしれません。AIを使ううえで大事なのは、「全部任せる」ことではなく、「下書きとして使う」姿勢です。AIが作った叩き台を元に、企業の温度感を反映する表現へとチューニングする。これが“読まれるだけでなく、信頼される求人”に必要な工程です。
生成AIを活用して求人票を書くといっても、全体を丸ごとAIに任せられるわけではありません。現実には、「AIが得意な部分」と「人間が考えるべき部分」がはっきりと分かれています。この節では、実際にハローワークの「求人票作成シート(以下、ハロワシート)」を使ったとき、どの項目がAIに向いているか、逆にどの項目は自分で記入すべきかを線引きしておきましょう。
まず、自由記述欄や説明文を書く項目は、AIの得意分野です。以下は特に活用しやすい項目です。
仕事の内容(業務内容)
→ 実際の作業内容や1日の流れなどをAIに聞きながら整理すると、わかりやすくまとまります。会社の特徴・PR欄
→ 「どんな社風か」「どういう人に合うか」などをAIに言語化してもらえます。求める人物像や適性
→ 前章で述べたとおり、人物像の抽出や文章化はAIの活躍ポイントです。待遇や福利厚生の説明文(数字ではなく“言葉で伝える”部分)
→ 固定的な条件だけでなく、社内の雰囲気や働きやすさを伝える文章なども、AIで生成可能です。
これらは、企業側が「言葉にしにくい」と感じやすい項目であり、逆にAIに任せれば、読みやすく整った文章をスムーズに作成できます。一方で、労働条件や法令に関わる具体的な数字や選択項目については、人間が責任をもって記入すべきです。以下は、どのような数字にするとよいか?という壁打ち的な利用をする分にはかまいませんが、AIに丸投げするべきではない部分です。
賃金、就業時間、休日数、残業時間などの数値
→ 実際の社内ルール・就業規則・雇用契約をもとに正確に記入する必要があります。労働条件に関する選択項目(雇用形態、試用期間の有無など)
→ 法的な要件を満たすかどうかを確認するため、AIではなく人間が直接確認すべきです。加入保険、福利厚生の制度的項目(例:厚生年金、雇用保険など)
→ こちらも法律に関わるため、間違いがあるとトラブルにつながる可能性があります。採用までのフロー(選考方法、面接回数など)
→ 実際の運用と合致させる必要があるため、自社の人事担当者(零細企業の場合、基本的に社長)が決めて入力するべきです。
なお、AIで書けるかどうか迷ったときの判断基準はとてもシンプルです。
「厳格に決めごとがあること」や「はっきりした数字」→人が書く
「伝え方を工夫すべき説明文」や「印象を左右する表現」→AIに書かせる
この線引きを意識することで、AIに頼るべきところと、自分でしっかり考えるべきところを混同せずに、効率よく求人票を作成できます。
あくまでAIは、「最初のたたき台」や「文章整形の補助ツール」です。求人票の全責任を任せるのではなく、自分の考えを整理したり、伝わる表現に変換してもらう“ライティングの相棒”と考えるのが正解です。
3-1 そもそも「生成AI」って何?
生成AIで実際に作成される前に、一応生成AIについて簡単な説明をします。知ってるよと言う方は読み飛ばしてください。
最近よく耳にする「生成AI(ジェネレーティブAI)」という言葉。その代表例が「ChatGPT」です。AIというと、これまで専門家や一部の業界でしか使えない印象がありましたが、今ではスマホやパソコンさえあれば、誰でも使える身近な存在になっています。では、そもそも生成AIとは何をしてくれるものなのでしょうか。ざっくり言えば、「質問に対して、言葉や文章、アイデアを人間のように考えて返してくれる道具」です。これまでの機械的なQ&Aとは異なり、人間が話すような自然な文章を作るのが得意です。たとえば、「求人票の冒頭文を考えて」といった曖昧な依頼にも、それらしい文章を即座に提示してくれます。
ChatGPTは、OpenAIという会社が開発した生成AIの一種で、大量のテキストデータを学習しています。インターネット上の文章や本、ニュース、ブログなど、ありとあらゆるテキスト情報をもとに、「次にどんな言葉が来るか」を予測して文章を組み立てています。だから、たとえば「明るく元気な職場です」と打てば、それに続く自然な表現もスラスラと返してくれるのです。
ただし、注意が必要な点もあります。ChatGPTはあくまで“確率的に自然な文章を作る”ためのツールであり、「正しい情報を作る」わけではありません。たとえば法律の要件や助成金の条件など、正確性が求められる内容をそのまま信じてしまうのは危険です。法律や制度に関する部分は、必ず専門家や公的機関に確認しましょう。AIは文章を整えるのが得意でも、真偽の判断までは得意ではないのです。
また、ChatGPTは「指示の仕方」によって大きく精度が変わります。「良い感じにして」といった曖昧な言葉では、出力結果もあいまいになります。逆に「ハローワークの求人票の冒頭文として、明るく親しみやすいトーンで、求職者に安心感を与えるような表現で書いてください」など、具体的な要望を伝えることで、より意図に近い文章が出てきます。このように、ChatGPTはうまく使えば非常に便利なパートナーです。特に文章を考えるのが苦手な方、時間をかけずに求人票をブラッシュアップしたい方には、大きな助けになります。ただし、「使い方」と「目的」をしっかり押さえることが、AIを活用する第一歩です。
3-2 “準備8割”がAI活用の分かれ道
AIを活用する上で、もっとも大切なことは何でしょうか?それは「準備」です。特に、ChatGPTのような生成AIを使って求人票を作成する場合、「どのような情報を、どのように渡すか」が成否を大きく左右します。生成AIは、魔法の杖ではありません。「〇〇して」といった指示だけで、こちらの意図を完全に汲み取ってくれるわけではないのです。むしろ、こちらの入力が曖昧であればあるほど、AIの返す答えもぼんやりした内容になりがちです。
たとえば、「うちの会社の魅力を伝えてください」とだけ指示したとします。AIはどんな会社かを知りません。最近は優秀なので、どのような会社ですか?と確認するケースも多いですが、無理やり表現してもらっても、どこにでもあるような一般的な表現、たとえば「社員同士のコミュニケーションが活発で、働きやすい職場です」などと返してくる可能性が高いでしょう。しかし、これでは多くの求人票に埋もれてしまい、差別化ができません。
一方で、こんな準備をしておけばどうでしょうか。
「創業20年、地元密着の工務店。社員数は10名。20代~60代がバランスよく在籍」
「社員旅行では家族同伴OK。チームワーク重視」
「職人の高齢化が進んでおり、20代を積極採用中」
このように事前に具体的な情報を整理し、AIに「この情報をもとに、20代の求職者に響くような紹介文を書いてください」と指示すれば、内容はグッと実用的になります。つまり、AIは「よき相棒」ではあるけれど、「指示待ち人間」でもあるのです。こちらが何を期待し、どの方向を目指しているかを丁寧に教えることで、初めて本領を発揮してくれます。ここでポイントは、きれいな文章でなくても良いということです。箇条書きにしておいて、「うちの会社は以下のような特徴があります。この情報をもとに…」としても、きちんと箇条書きの情報から内容をくみ取ってくれます。
そして、この「準備」の中には、会社の現状を整理するという副次的な効果もあります。強みや魅力、改善点、求める人物像を改めて言葉にすることで、経営者自身が自社を見つめ直す機会になるのです。求人票づくりとは、採用のためだけではなく、「会社の棚卸し」でもあります。見つめなおすときにアイデアが出ないときには、そのアイデアのヒントも出してもらえます。例えば、「土木業で主に市役所の仕事を受けている会社です。従業員は社長を含めて4名で小規模ながらも丁寧な仕事を心がけています。このような会社だとどのような特徴があると思いますか?」と聞けば、こうではないですか?という回答が返ってきます。その回答があれば思いつくこともたくさんありますし、「○○と××はうちの特徴です。これを踏まえて他には何があると思いますか?」と確認すればさらに深堀できます。
AI時代において、「早く」「効率的に」作ることは確かに重要です。しかし、スピードだけを求めて準備を怠ると、見当違いな文章ができあがり、かえって手間がかかってしまうこともあります。だからこそ、AIを使う前の段階で、どれだけ質の高い情報を用意できるかが、結果を大きく左右します。求人票作成において「準備が8割」。ここをおろそかにしないことが、AIを使いこなす最初の分かれ道なのです。
3-3 AIを使う前に準備しておくこと
生成AIを活用して求人票を作成するには、ただ「使うだけ」では不十分です。より効果的に活用するためには、事前の“3つの準備”が重要になります。それが「ツールの選定」「入力のコツ」「セキュリティ意識」の3つです。
1. ツールの選定:何を使えばよいのか?
まず、どの生成AIを使うかを決める必要があります。現在主流なのは、OpenAIの「ChatGPT」や、Googleの「Gemini」などです。本書ではChatGPTをベースに説明しますが、基本的な考え方はどのAIにも共通しています。ChatGPTには無料プランと有料プランがありますが、求人票を作る程度であれば無料版でも十分です。ただし、安定性や性能を重視するなら有料版の導入も検討してよいでしょう。ブラウザからの利用が一般的ですが、スマホアプリでも利用可能です。使いやすい環境を整えることが、長く活用するための第一歩です。使い方は様々なHPで紹介されていますし、本もたくさんあります。また、ChatGPTにアクセスして聞いてもらえば教えてくれます。
2. 入力のコツ:AIは“言われた通り”に動く
生成AIは、魔法の道具ではありません。曖昧な指示をすれば、曖昧な答えが返ってくるのは当然です。したがって「入力(プロンプト)の質」が結果の質を決めるカギになります。
たとえば、「求人票を書いて」ではなく、「20代の求職者向けに、地元密着で社員10人の建設会社が、施工管理職の魅力を伝える文章を書いてください」といったように、対象・目的・会社の状況などを具体的に伝えることで、精度の高い出力が得られます。
会話形式でAIとやりとりすることに最初は戸惑うかもしれませんが、実際は非常に柔軟で、指示の出し直しも簡単です。「ちょっと柔らかく書いて」「もっと端的に」「漢字を減らして」など、自然な日本語で指示すれば反映してくれるのが大きな魅力です。
3. セキュリティ:大事な情報は入力しない
最後に、見落としがちなのがセキュリティの配慮です。生成AIは便利ですが、外部サーバーに情報を送信して処理しています。そのため、個人情報や機密情報を入力するのは絶対に避けましょう。たとえば、「従業員のフルネーム」「具体的な給与明細」「顧客情報」などをAIに入力するのは厳禁です。求人票作成においても、応募者が特定できるような記述には注意が必要です。法人契約やセキュリティ強化されたバージョンであれば、情報の扱いもある程度担保されますが、基本的には「AIには公開しても問題ない範囲の情報しか渡さない」という姿勢が安全です。生成AIは、準備さえ整えれば誰でも使える強力なツールです。ツール選定・入力の精度・セキュリティ意識という3つの視点を持って臨むことで、失敗や不安なく、求人票作成の強力な味方として活用することができます。
3-4 AIに渡す情報は、まず“誰に来てほしいか”から
生成AIに求人票の文章を考えてもらう際、最初にやるべきことは「どんな人に来てほしいか」を明確にすることです。これはAIに限らず、どんな求人手段を使うにしても避けて通れない工程ですが、AIを使うことでより一層、情報の具体性が求められます。
多くの企業がやりがちな失敗の一つに、「理想の求職者像を空想で描きすぎる」ことがあります。たとえば、「経験10年以上で即戦力」「若くて元気でコミュニケーション能力が高く、なおかつ専門スキルも高い」など、実在するのかも怪しい“完璧な人材像”を求めてしまうのです。
しかし現実には、そんな人材はまず応募してきませんし、してきたとしても他社との争奪戦になります。中小企業が限られた条件の中で人を採用するには、「理想」よりも「現実」に目を向ける必要があります。そこでおすすめしたいのが、「自社の今いる従業員」をベースに考える方法です。たとえば、現場で活躍しているAさん。最初は未経験だったけれど、真面目にコツコツ頑張って今では頼れる存在になっている――そんな人がいるなら、そのAさんこそが「欲しい人材」のモデルです。性格や価値観、入社時のスキル感など、できる限り具体的に思い浮かべてみてください。
AIに人材像を伝えるときには、抽象的な表現よりも、具体的なエピソードや数値を使う方が、意図が正確に伝わります。たとえば、「まじめな人」ではなく「毎朝10分早く来て現場の掃除をしてくれるような人」や、「コミュニケーションが得意な人」ではなく「新人の面倒を見てくれるような先輩タイプ」など。これらの表現のほうが、AIは適切な文章に落とし込みやすくなります。また、「未経験でも半年で基本業務を覚えられる」「残業は月10時間以内」といった数字も、求職者に安心感を与えるだけでなく、AIに対する情報提供としても有効です。
さらに、NGパターンをあらかじめ伝えておくのも非常に有効です。「細かい作業が苦手な人には向いていません」「外作業が多いので、体力に自信がないと厳しいかもしれません」など、ネガティブな面を隠さずに伝えることで、応募後のミスマッチを防ぐことができます。
AIにこうした情報を与えておけば、「こんな人は活躍できる」という前向きな表現にうまく転換してくれることもあります。
「どんな人に来てほしいか」を考えることは、求人票づくりの核心です。しかもそれは、経営者や現場責任者にしかできない“人を見る目”の領域。AIに求人票を任せるからこそ、その土台となる情報は人間が責任をもって与える必要があります。
3-5 人物像に困るときは「こんな人は困る」を出発点に
「どんな人に来てほしいか」を明確にすることが、AIに求人票を書かせるうえでの第一歩であることは前節で述べました。しかし現実には、「理想の人物像を言語化してください」と言われても、なかなかスラスラとは出てこないものです。ましてや、普段から人材育成や評価に慣れていない中小企業の現場では、なおさらです。そこでおすすめしたいのが、逆転の発想です。つまり、「こんな人に来てほしい」という理想像ではなく、「こういう人は来てほしくない」という“困る人物像”からスタートする方法です。
実際、過去に採用して後悔した人や、面接で違和感を覚えた人の特徴は、記憶に強く残っていることが多いものです。
「時間にルーズで毎回ギリギリに出社していた」
「電話応対が苦手でお客様とトラブルになった」
「こちらの指示を受け入れず、自己流で仕事を進めたがる」
――など、こうした“NG人物像”は、理想像以上に具体性をもって語れるはずです。このような情報は、AIにとっても非常に役立ちます。ChatGPTなどの生成AIに対して、「○○のようなタイプは避けたいです」と伝えることで、逆に「○○でない人=理想像」に近づいていけるからです。
ある程度ネガティブ情報が集まったら、AIに人物像の生成を依頼しましょう。たとえば次のような投げかけが効果的です:
「弊社では、指示をきちんと守って動ける人を求めています。一方で、マイペースで自己判断が強すぎる人は合いません。そうした職場に合う求職者像を文章で表現してください。」
するとAIは、ネガティブ要素を前向きな表現に変換し、「チームの一員として協調性を大切にしながら、自主的に動ける方に向いている職場です」といった、ポジティブで読みやすい文に仕上げてくれます。その際出てきた人物像に納得がいかなければ、すかさず修正依頼を出しましょう。例えば、「“自主的に動ける方”ではなく、“上司の指示に従える方”に表現を変えてください」のようなやり方です。このように細かく依頼を重ねることで、理想に近い人物像が整っていきます。
最後に、もう一つ大切なポイントがあります。AIに人物像を考えてもらう際、「つい理想を追いすぎる」という罠に陥りがちです。たとえば、
「営業経験10年、即戦力でコミュ力抜群。かつ若くて柔軟性のある人材」
「現場経験15年、○○技師2級を持っていてリーダー経験がある人材」
――などと無意識に“スーパー人材”を求めてしまうと、AIは忠実にその通りの文章を返してくれます。けれど、そんな人材は自社に応募してこない可能性が高い。無理な理想像をそのまま使えば、結果的にミスマッチを招くことになります。そこでAIに対しては、あらかじめこう伝えておくのがおすすめです。
「もし条件が現実的でない場合は、“その人材は応募してこない可能性が高い”と指摘してください」
AIは時に“都合のいい嘘”をつくこともあります。だからこそ、厳しめのフィードバックもしてもらえるように頼んでおくことで、より現実的で実行可能な求人文章に仕上がるのです。
3-6 働き盛りのフルタイム勤務社員という夢を捨てる
「働き盛りの30代男性を正社員フルタイムで雇って、長く安定的に働いてもらいたい」──これは、昭和から平成にかけて、多くの企業が持っていた理想的な人材像かもしれません。令和の今でも変わらない気がします。しかし、今やそれは「夢」と言ってもいいほど、現実から離れた幻想になりつつあります。高齢化と少子化が進む日本。地方では若手がごっそり減り、都市部でも人手不足は深刻です。特に中小企業にとっては、「良い人材を雇いたい」と思っても、そもそも“良い人材”が市場にいない、あるいは大企業に取られてしまっているのが実情です。
現在の労働市場は、もはや「フルタイム正社員」だけを中心に考える時代ではありません。パートタイム、時短勤務、副業OK、在宅勤務、高齢者──これらが選択肢として当たり前に並ぶようになり、求職者は「自分に合った働き方ができるか」を重視して職場を選ぶようになっています。かつては「この条件で来てくれる人」を探していた企業も、今は「この人が働きやすい条件をどう作れるか」を考える必要があります。つまり、“雇用のミスマッチ”を防ぐためには、企業側の意識転換が不可欠なのです。
そのため「週3日、4時間だけなら働ける」「子どもが熱を出したら急に休むかもしれないけど、日中は戦力になる」「60歳を過ぎていても、PC入力は得意です」──こうした人たちを“戦力外”として除外していては、採用できるはずの人材をみすみす逃してしまいます。
求人票を作る際、「フルタイムが理想」だとしても、それを押し付けるのではなく、「パート勤務応相談」「柔軟に対応可能」などの表現を使うことで、より多様な人材にアプローチできます。特にAIを使って求人票を作る場合、こうした柔軟な姿勢や受け入れ可能な働き方の幅を事前にAIに伝えておくことが重要です。でなければ、従来型の「完璧なフルタイム人材」を前提とした、現実離れした求人が生成されやすくなります。
これからの採用は、条件の合う人を「待つ」のではなく、条件を「合わせていく」姿勢が求められます。求人票を作るときには、「何曜日の何時なら対応可能か」「どの作業を任せたいか」など、一部戦力として活かせるポイントを明示し、それに合う人に向けたメッセージにすることが、結果的に応募数を増やすことにもつながります。AIを活用すれば、「フルタイムでがっつり働く人向けの文章」だけでなく、「時短勤務希望者向け」「副業・ダブルワーク希望者向け」など、ターゲット別の求人文を複数バリエーションで生成することも可能です。
人手不足が進むこれからの時代、「フルタイム勤務の働き盛り社員」を理想とし続けるのは危険です。多様な人材をどう活かすか、そのためにどんな条件を提示できるか。この視点を持つことが、求人戦略のカギとなります。AIはその戦略を実行するツールとして、大いに力を発揮してくれるはずです。
AIは非常に便利なツールです。求人票を作る際にも、たたき台として使えば、時間と手間を大きく削減できます。しかし、AIに任せてはいけない領域があることを、忘れてはいけません。それが、「法律上、書かなければならない項目」や「書き方を間違えると違法になる可能性のある表現」です。たとえば、試用期間の明示、残業代の支給ルール、給与の構成要素、雇用形態の記載方法、みなし残業の取り扱い…。こうした項目は、表現を誤ると、求職者とのトラブルだけでなく、法的責任を問われる可能性すらあります。ここで注意すべきなのが、AIは「正確な法律の解釈」を提供するために設計されているわけではないという点です。AIはあくまで「言葉のパターン」をもとに、それらしい文章を生成する技術であり、その内容が正しいかどうかを法的に保証するものではありません。ネット上にある情報をもとに生成されるため、古い情報や間違った表現が混じってしまうこともあります。
では、正しい情報をどこで手に入れればよいのでしょうか?答えはとてもシンプルです。ハローワークの職員に聞けばいいのです。ハローワークは国が運営する公的機関であり、求人票の作成支援も完全に無料(0円)で行っています。しかも、実際の求人票を審査・掲載する窓口なので、労働基準法や職業安定法などに基づいた実務的なアドバイスを、その場で受けることができます。
「わざわざ窓口に行くのは手間」と感じるかもしれませんが、実際には電話での問い合わせでも十分対応してくれるケースがほとんどです。「試用期間がある場合、どのように書けばいいですか?」「みなし残業について正しい表記は?」といった質問を電話で相談すれば、担当者が丁寧に教えてくれます。つまり、正確な情報を“無料で、最小限の手間で”得られるのがハローワークの強みなのです。一方で、AIはあくまでも「仮の文章」や「たたき台」を作るためのサポートツールとして使うのが最適です。とくに、AIが出してきた表現が法律的にグレーゾーンか心配なときには、最終的な判断はプロに委ねることが大切です。
見落としがちなポイントですが、「きれいな日本語で、説得力がありそうな文」が出てきても、それが正しい内容とは限らないというのが、AI時代のリスクでもあります。自然な文章であればあるほど、誤った情報に気づきにくいのです。だからこそ、AIを使うほどに、「最後は人に確認する」習慣を持つことが、信頼される求人票づくりの秘訣になります。特に、法的な記載義務に関わる部分は、ハローワーク職員という「無料のプロ」に遠慮なく頼ってください。AIとハロワ職員、この両者を活用することが、採用成功への最短ルートなのです。細かい要素をハロワ職員に聞く場合は、求人票をもってハロワに訪れると全体的に確認できます。また、ハロワ求人票をオンラインで作成すると法律的に問題のある個所は指摘してくれます。生成AIで基本的な部分をチェックしつつ入力したらオンラインでハロワ求人票を作ってしまうのも1つの手です。
2-1 求人票の構成には“型”がある
求人票を作成するとき、「まず何から書けばいいのか分からない」と手が止まってしまうことはありませんか?その原因の多くは、“構造”が見えていないことにあります。実は求人票には、どの媒体でも共通して求められる「型」が存在します。この型を理解するだけで、求人票作成のハードルは一気に下がります。求人票に必要な情報は、大きく分けて次のような項目で構成されています。
職種/仕事内容/勤務地/勤務時間/休日/給与/応募資格/福利厚生/会社概要
これらは、どの求人媒体でも基本的に求められる情報です。読者になる求職者も、この構成に慣れており、無意識に「書かれていること」を期待しています。たとえば、仕事内容の前に会社紹介が長く続いたり、給与情報が最後まで出てこなかったりすると、違和感を感じたり、応募対象から外してしまうケースが多くなるでしょう。
一方で、この型がしっかり整理されていれば、読み手は自然に内容を理解でき、「ここで働くイメージ」が湧きやすくなります。つまり、求人票において“型”とは、単なる項目の羅列ではなく、応募者との信頼関係を築く「情報設計」の基本なのです。では、その“型”をどうやって学ぶべきか?答えはシンプルです。「ハローワークの求人票」をベースにすることです。
ハローワークの求人票は、長年にわたり厚生労働省が運用してきたフォーマットであり、法律に準拠し、採用に必要な情報が網羅的に整理されています。民間の求人媒体と異なり、過度な装飾や煽り表現がない分、純粋に「採用に必要な情報とは何か?」が非常に明快です。特に中小企業や個人事業主にとっては、「何を書けばよいのか分からない」「トラブルが怖い」といった不安がありますが、ハローワークの求人票は、そうした心配を一つずつ潰してくれる“設計図”とも言える存在です。この構成をベースにすれば、抜け漏れを防ぎつつ、必要な情報を順序立てて記載できます。さらに、この明確な「構造」は、AIとの相性が非常に良く、AIを使った求人票作成にもそのまま活かせます。
「型を整える」ことは、読みやすさ・信頼性・作業効率すべての土台なのです。どんなに魅力的な言葉を使っても、構成がバラバラでは相手に伝わりません。まずは、ハローワーク式の求人票から、「構成の型」を正しく理解し、あなたの求人票の土台をしっかりと築いていきましょう。
2-2 求人票の“法的リスク”はハローワーク様式で回避できる
求人票を書くときに最も怖いのが、「法律で書かなければいけない情報が抜けていた」という事態です。たとえば、残業の有無や試用期間、給与の内訳などを曖昧に書いてしまった場合、応募者とのトラブルや法的リスクにつながる可能性があります。「何をどこまで書けばいいのか」が不明確なまま求人票を作ると、こうした“情報の漏れ”が起きがちです。そこで有効なのが、ハローワークの求人票をひな型として使う方法です。なぜなら、ハローワークの求人票は、労働基準法をはじめとする関連法令に基づいて構成されており、法的に求められる情報がすべて網羅されているからです。言い換えれば、「この形式に沿って書けば、必要な情報の漏れを最小限に抑えられる」という“保険”のような役割を果たします。具体的には、以下のような項目が網羅されています。
・募集職種と業務内容:どんな仕事をしてもらうのか?
・労働時間:始業・終業時刻、休憩時間、残業の有無と頻度
・休日・休暇:週休何日制か、有給取得の実績はあるか?
・賃金の詳細:基本給・手当・昇給・賞与・残業代の支払い方法など
・試用期間の有無と条件:期間中の待遇が異なる場合はその記載も必須
・雇用形態・契約期間:正社員か有期雇用か、更新の可能性はあるか
・社会保険・福利厚生:健康保険・厚生年金・退職金の有無など
・応募条件:学歴、資格、経験などの要件
・会社情報:所在地、従業員数、事業内容など
これらは、単に「親切な情報提供」ではなく、法的に記載が求められる項目が多く含まれています。そのような重要情報を漏らしてしまうと、後から「そんな条件は聞いていない」「話が違う」と言われかねません。特に、給与や労働時間といった項目は、あいまいな表現を使うことでトラブルになりやすい部分です。「給与:当社規定による」「勤務時間:シフト制」だけでは不十分で、求職者が判断できるレベルの具体性が求められます。ハローワークのフォーマットを使えば、これらの情報を項目ごとに丁寧に記載できるため、誤解を防ぎ、安心感を与える求人票が作れます。
また、これはAIを活用する際にも非常に重要なポイントです。AIに求人票の作成を指示する際には、「どの項目に何を書くか」が明確であるほど、質の高いアウトプットが得られます。ハローワーク形式のように項目が整理されていれば、プロンプトもシンプルになり、誰でも再現性のある文章生成が可能になります。つまり、ハローワークの求人票を“型”として使うことは、
(1)法律的リスクの回避
(2)求職者との信頼関係構築
(3)AIによる自動化との親和性
という3つの面で非常に有効なのです。採用活動は、企業と人との最初の接点。その入り口である求人票に抜けや誤解があると、採用のチャンスを逃したり、その後の早期退職につながります。だからこそ、「法律で書くべきことが書いてある」という信頼性の高い構成から始めましょう。それが、AI時代の採用活動を成功させる第一歩になります。
2-3 実は…ハローワークの求人票は文字だけではない
ハローワークの求人票というと、「文字情報だけで地味」というイメージを持っている人も多いかもしれません。しかし実は、写真や画像の添付も可能だということをご存じでしょう?最近では、ハローワークインターネットサービスの機能も拡張されており、企業が任意でアップロードできる画像・資料のスペースが用意されています。つまり、ハローワークも“視覚的に伝える時代”へと変化しているのです。とはいえ、ただ何でも画像を載せればいいというものではありません。大切なのは、「この会社の雰囲気や魅力が伝わるかどうか」です。画像は、文字では伝えきれない空気感や人の表情、職場の清潔感や雰囲気などを補う強力な要素です。
たとえば、「アットホームな職場です」と書くだけではブラックワードとしてとらえられてしまう情報も、実際に社員同士が談笑している写真や、明るい休憩スペースの写真があるだけで、グッと説得力が増します。清潔感のある作業場の写真があれば、衛生面を気にする応募者も安心できますし、代表者の顔写真とひと言メッセージがあるだけで、「誠実そうな社長だな」と感じてもらえることもあるのです。ハローワークに限らず、最近の求職者は求人票を「読んで」判断するだけでなく、「見て」判断する時代になっています。つまり、画像もまた“求人情報の一部”として機能しているという認識を持つ必要があります。では、どんな写真や画像を準備すればよいのでしょうか。以下は、応募者の関心が高い「求人画像」の例です。
・職場の風景(オフィスや作業場)
・働く人の様子(チームでの打ち合わせ風景など)
・福利厚生の一部(休憩室、社内イベント、食堂など)
・社長や先輩社員のメッセージつき写真
・業務内容を説明する図や簡単なフローチャート
これらの画像を活用すれば、文字情報では伝えにくい部分も補えますし、「自分がここで働くイメージ」が湧きやすくなります。しかもこれは、後の章で紹介するAIによる画像生成サポートとの連携にも大きく役立ちます。たとえば、実際の写真がない場合でも、「このような職場の雰囲気を伝えたい」と方向性を定めておけば、AIで適切なイメージを作り出す手助けになります。つまり、ハローワークの求人票を通じて“どんな絵を描きたいか”を考えることは、ビジュアル戦略の出発点にもなるのです。
もちろん、画像を添付できる媒体はハローワーク以外にも多数ありますが、最初に「最低限伝えるべき情報+写真1〜2枚」の構成を考えておくことで、他媒体への展開もしやすくなります。求人情報の「基礎設計図」としての役割を果たすハローワーク形式は、文字と画像の両面で会社の魅力を発信する“土台”として、実は非常に優れた存在なのです。
2-4 ハロワの情報があれば求人媒体にはそのまま出せる
「求人媒体ごとに書式が違うから、毎回一から書かないといけない」
そう思っていませんか?実はこれは大きな誤解です。ハローワーク用に作った求人情報があれば、それをほとんどそのまま他の求人媒体にも使い回すことができます。先に述べたようにハローワークの求人票は、法律に基づいて構成されており、職種、仕事内容、労働条件、給与、福利厚生など、「求人に必要な情報」がすべて網羅されています。むしろ、他の求人媒体に比べて、情報量・粒度ともに最も細かく、正確な内容を求められるのがハローワークの特徴です。たとえば、以下のような求人媒体に掲載する際も、基本的にはハローワークの内容をもとに調整すれば事足ります。
・Indeed(無料・有料)
・求人ボックス
・engage(エンゲージ)
・スタンバイ
・自社の採用ページ(作成方法は後の章で)
・SNSでの求人投稿(X、Instagram、Facebook)
実際にこれらのサービスを利用してみると、必要項目がハローワークと非常に似ていることに気づくはずです。「職種」「仕事内容」「勤務地」「給与」「勤務時間」「休日」「応募資格」などは、媒体によらず必須項目です。つまり、ハローワークの原稿さえしっかり作っておけば、それをコピーベースにして他媒体にも展開できるというわけです。
特に、複数の求人媒体を横断して使う企業にとっては、この“使い回せる構造”が大きな時短・効率化につながります。一つひとつの求人媒体に別々の原稿を用意するのではなく、「ハローワーク版の求人票を母体にして、あとは媒体ごとの特性に合わせて微調整する」という方法が最もスマートです。
また、ビジュアルやストーリー性を重要視する場合には、ハローワークの情報に少し感情的な言葉や画像を足せば十分に対応できます。土台となる情報がしっかりしているからこそ、媒体ごとに「魅せ方」を変えるだけで済むのです。AIを活用すれば、このチューニング作業も一瞬で行うことができます。たとえば、ChatGPTに以下のようにプロンプトを入れればOKです。
「以下のハローワークの求人票をもとに、Indeedに掲載する用に読みやすく書き直してください。SEOを意識して“未経験歓迎”“働きやすい環境”などのキーワードを入れてください。」
こうすれば、元データを活かしつつ、掲載媒体に最適化された文章がすぐに生成されます。
つまり、「最初の一枚」をハローワーク形式で丁寧に作っておけば、そこから横展開でどんどん拡張できるのです。媒体ごとにバラバラに原稿を作る必要はなく、中心軸としてハローワークの求人票を据えることで、採用活動が驚くほど効率化されます。この「一つ作って、複数に使い回す」スタイルは、忙しい中小企業や個人事業主にこそぴったりです。正確で誠実な情報を整えたうえで、媒体ごとの“見せ方”を工夫する。そんなスタイルが、これからの求人票運用の基本になっていくでしょう。