『具体と抽象』
細谷 功
dZERO(2014/11/27) 1,980円
【感想】
東京大学工学部を卒業後、東芝にて原子力技術者として勤務。その後、米仏日系のコンサルティング会社を経て、ビジネスコンサルタントに転身。ビジネスコンサルティングだけではなく、問題解決や思考に関する講演・セミナーを実施している細谷功さんの著書。本書をもとにした子供向けの「13歳から鍛える具体と抽象」も出版され、Amazonでベストセラーとなっています。
本書を読んで、数字というものの取り扱いに得手不得手がある理由にとても納得がいきました。数字というのは3とか100とかはっきりしており、一見具体的に見えます。しかし、実際に数字を取り扱う際には、多くの事象を個々の数字にまとめてしまいます。つまり、個々の事象を数字に抽象化してしまうのです。そのため、抽象度の高い思考をすることが苦手な人は、数字を取り扱うことを苦手としてしまうのではないでしょうか。
日常生活では、それほど不都合はないと思います。もちろん抽象的な視点で考えることができれば有意義ですが、必ずしも必要ではありません。しかし経営者は、抽象的な概念で物事をとらえる必要があります。経営は、現場の具体的な作業だけではなく、抽象度の高い視点から会社の方向性をとらえる必要があるからです。また、その経営状況を確認する最も効果的な道具は財務情報ですが、財務情報は多くの具体的な活動をいくつかの数字に落とし込んでいます。そのため、非常に抽象的な情報しか提供しません。とはいえ経営者が社内のすべての行動を検証する時間はありません。やはり経営者には抽象的概念の理解が必須であると言えるでしょう。
【以下、引用】
科学や技術的な発見、あるいはビジネスのアイデアなども多くは抽象レベルでのまねから生まれています。たとえば活版印刷機はブドウ圧縮機から、回転寿司はビールのベルトコンベアから、あるいは生物からヒントを得た工業製品も数多くあります。
身の回りの「一見遠い世界のもの」をいかに抽象レベルで結び付けられるかが、創造的な発想力の根本ともいえます。
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抽象化して話せる人は、「要するに何なのか?」をまとめて話すことができます。膨大な情報を目にしても、常にそれらの個別事象の間から「構造」を抽出し、なんらかの「メッセージ」を読み取ろうとすることを考えるからです。
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抽象度の高い概念は、見える人にしか見えません。抽象化というのは、残念ながら「わかる人にしかわからない」のです。