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2022.08.06
宿泊業の資金繰りのポイントとは

◆宿泊業は効率的な設備投資を行うことが重要

宿泊業は、原則的に日々の売上がそのまま現金にかわる日銭型の商売です。 また、顧客ごとの単価が大きく変動することがないため、一定の売上を継続することができれば、資金繰りに困ることはありません。

このような傾向にあるため、一般的に運転資金が必要とならない業種であり、金融機関から運転資金を得ることが難しいため業種です。 そのため運転資金のための自己資金の確保が非常に重要です。

これに反して、宿泊施設の開設のための設備投資は非常に高額になります。そのため、投資費用の回収がなかなか行えず、長期にわたる傾向にあります。 設備投資に当たっては、本当に必要であるかをよく検討し、必要なものにだけ投資を行うようにして、極力資金流出を抑えることで、 早期の回収が可能になります。投資資金を早期に回収することで、利益の積み増しが容易になり安定した経営が可能となります。 しかし、必要な経費を抑えてしまうと、後の収益につながりません。戦略にのっとったビジネスモデルをもとに合理的な判断が重要です。

宿泊業が投資資金を回収できない最大の理由は、初期の設備投資額に対して、顧客一人当たりの利益が伸びないことにあります。 そのため、起業時に思っていた以上に利益を積み重ねることが困難です。 また、客数の急激な低下がおきづらく、客数低下により急激に経営が悪化しにくい半面、短期に収益を上げづらいため、急激な回復が難しい業種です。 その結果、少しずつ資金繰りが厳しくなる傾向にあるため、他の業種と比較して強い危機感が出にくく、経営改善も起きにくい傾向があります。

 

◆銀行との信頼関係を高める

先に述べた通り、宿泊業は運転資金を借りることが難しい業種です。 特に開業後に、資金繰りが悪化した場合の借り入れは容易ではありません。 それは、宿泊業が開業後に必要とする運転資金の借り入れは赤字の補填の場合が多いからです。 金融機関に対して、回復までの具体的なビジネスモデルの提供が必要などハードルが高くなります。

これに対して、開業前の運転資金の借り入れは他の業種と比較して特段困難というわけではありません。 金融機関の納得するビジネスモデルをもとに、開業前により多くの資金融資を得て運転資金を得ることが重要です。

運転資金は借りにくい業種ですが、設備投資資金は借り入れることができます。 老舗などの古さを売りにしている宿泊業を除き、 経年劣化により設備が古くなってくると収益に影響が出やすい傾向にあります。 そのため、定期的に改修や新設が必要となり、このような資金を設備投資資金として金融機関より借り入れることとなります。 金融機関からなるべく良い条件(必要な資金を、なるべく早く、低利率)で融資してもらうためには、金融機関との信頼関係を高めることが重要です。 「銀行さんは、晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」と言われますが、それは、金融機関との信頼関係がないことが最大の理由です。

金融機関との信頼関係は、財務諸表の数字、経営者の姿勢、資金の使用状況、返済実績、取引振りなどを通じて高めていきます。 全く利益が出ていないのに、新規開拓や営業努力が見られない期間が何年も続けば、金融機関としては信頼することができません。 他にも、資金を事業以外へ流用している、約束が守られない、利率だけでころころ借入先が変わる等があると信頼関係は崩れます。

金融機関はお金を貸し、貸した先の業績を好転させ、利息を払ってもらい利益を得る営利企業です。 返してもらえる当てがない、利息が払ってもらえない、そんな会社に資金を融資することはできません。 「あの自動車会社、ただで車くれないんだぜ、ケチだな!」とは言いませんよね。 「あの銀行、返せる確率が低い金、貸してくれないんだ、ケチだな!」と言っていませんか?

◆支払利息は必要経費

宿泊業は必要な運転資金は日々の売上で確保できるため、多店舗展開を行う予定がないのであれば、 金融機関から必ずしも運転資金での融資を得る必要がありません。

これに対して修繕や改修などで、定期的に設備融資を得る必要があるため、継続的な関係性の構築が必要です。 金融機関も、今までに取引したことのない会社に、お金を貸して!と言われても、すぐに融資することはできません。 融資のための審査にかなりの時間がかかります。

しかし、常日頃から、金融機関とのお付き合いがあれば、この問題点を回避しやすくなります。 運転資金や設備資金などで長期の借り入れがあれば、そのままの状況で金融機関とのお付き合いができています。

経営が順調で、もしすべて返済してしまいそうなら、返済満了に合わせて、お付き合いで少ない金額を長期で借りることをお勧めしています。 返済満了から次の借り入れまでが1~2か月程度なら、あまり問題になりませんが、半年、1年と空いてしまうと、 次の借入時には、もう一度、審査が必要となります。 その場合、融資に時間がかかってしまう場合があります。

300万円の借入を5年返済、年利1%なら、年間利息は3万円未満です。 もちろん財務状態や資金の使用状況など、金融機関が当たり前に必要とする環境づくりは必要ですが、 年3万円(30%の税金なら負担額は2.1万円)で融資が受けやすくなるのなら 必要経費と割り切ってみてはどうでしょう? ちょっとした接待交際費と考えれば、多くはないと思います。

 

◆財務体質を改善し(実質)無借金を!

資金繰りを良くするうえで、金融機関の信頼を得ることはとても重要です。 そして、そのためにまず行う財務状態の改善は、そのまま良い財務体質を作り上げることと同じです。 どのような財務状態を作りたいのか、明確な目的を定めて戦略的に行うことがとても重要です。

基本的な目安として、預貯金が総資産の30%以上、自己資本比率30%以上という指標があります。 運転資金に使える現金・預金を合わせた合計が、全資産(現金・預金含む)の総額の30%以上というのが「預貯金が総資産の30%以上」になります。 また、純資産の部という資本金やこれまでの利益の合計が、全資産の総額の30%以上というのが「自己資本比率30%以上」になります。 この数字が絶対というわけではありませんが、一応の目安となります。

なお、純資産の部がマイナスになる債務超過は資金を考えるうえで、様々な点で問題が生じますので、債務超過となっている場合、まずは純資産の部をプラスにすることが重要です。

先に述べた通り、金融機関との取引をなくしてしまうとつなぎの融資をすぐに得たいときや、景気後退にともない一時的な運転資金の融資を受けたいときなどに困ることがあります。 必要に応じた設備投資を効果的に受けるためにも、全ての借金を返済しきる無借金経営ではなく実質無借金経営を目指すことが望ましくあります。実質無借金経営とは、「現預金の総額 > 借入金の総額」となっている状況です。