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2025.11.11
「通帳の残高=会社の儲け」ではない!銀行残高と帳簿がズレる本当の意味

月末、銀行の通帳を見て「よし、今月も残高はプラスだ」と一息つく。経営者なら誰しも経験がある光景ではないでしょうか。しかし、後から税理士が作成した試算表(会社の成績表のようなもの)を見て、「あれ?利益は赤字になっている…」と首をかしげたことはありませんか?

手元のお金(銀行残高)と帳簿上の利益が一致しない。この「ズレ」こそが、会社の健康状態を教えてくれる重要なサインです。会計に苦手意識がある方でも大丈夫。今日はこのズレの意味を解き明かし、明日からの経営判断に活かす方法をお伝えします。

なぜズレは起きる?犯人は「取引のタイムラグ」

結論から言うと、このズレの主な原因は、会計のルールである「発生主義」にあります。
発生主義とは、ざっくり言うと「お金が動いたタイミング」ではなく、「取引が確定したタイミング」で売上や費用を記録するルールのことです。

ピンと来ないかもしれませんね。町の小さな部品工場を例に考えてみましょう。

  • 3月10日: 得意先A社に部品100万円分を納品した。

  • 5月31日: A社から部品代100万円が振り込まれた。

この場合、会計帳簿(損益計算書)には、3月の売上として100万円が記録されます。しかし、実際に銀行口座の残高が増えるのは5月31日です。つまり、3月と4月の間、帳簿上は100万円の売上があるのに、通帳の残高は1円も増えていない、という状況が生まれるのです。これが「ズレ」の正体です。

仕入れも同じです。4月に仕入れた材料費50万円の支払いが6月末なら、帳簿上は4月の費用として計上されますが、お金が減るのは6月。このように、売上の入金や経費の支払いに時間差(タイムラグ)があることで、手元のお金と帳簿上の数字はズレていくのです。

「ズレ」から会社の健康状態を読み解く方法

この「ズレ」は、ただ気持ちが悪いだけではありません。放置すると、いわゆる「黒字倒産」という最悪の事態を招きかねない、危険なサインでもあります。だからこそ、私たちはこのズレから会社の状態を読み解く必要があります。

ここで見ていただきたいのが、貸借対照表の**「売掛金」**という項目です。売掛金とは、先ほどの例で言う「A社から後でもらえる100万円」のこと。つまり、まだ現金化されていない売上です。

例えば、あなたの会社の年間売上が1,200万円だとします。そして、貸借対照表の売掛金が常に200万円前後あるとしましょう。これを簡単な計算式に当てはめてみます。

売掛金回転期間 = 売掛金 ÷ (年間売上 ÷ 12ヶ月)
2ヶ月 = 200万円 ÷ (1,200万円 ÷ 12ヶ月)

この「2ヶ月」という数字が何を意味するか。
これは、「あなたの会社は、商品を納品してから現金を手にするまでに、平均して2ヶ月かかっていますよ」ということを示しています。

この2ヶ月間、従業員の給料や家賃、仕入代金の支払いは待ってくれません。損益計算書で利益が出ていても、この2ヶ月を乗り切る現金が手元になければ、支払いが滞ってしまいます。これが黒字倒産のメカニズムです。

自分の会社の売掛金回転期間が、業界の平均と比べて長すぎないか?取引先との入金サイトを見直す必要はないか?この「ズレ」の数字は、そうした具体的な経営改善のアクションを考えるきっかけを与えてくれるのです。

銀行と税務署は「ズレ」をこう見ている

このズレを正しく把握し、説明できることは、金融機関や税務署との付き合いにおいても非常に重要です。

銀行に融資を申し込むと、決算書の提出を求められます。銀行の担当者は、損益計算書の利益額だけを見ているわけではありません。「なぜこれだけ利益が出ているのに、預金残高が増えていないのですか?」と必ず質問してきます。この時、「売掛金の回収に時間がかかっていまして…」と数字の裏付けをもってきちんと説明できる経営者は、資金繰りをしっかり管理できていると評価され、信頼を得られます。

一方、税務調査では、調査官はあなたの会社の預金通帳と会計帳簿を徹底的に照合します。説明のつかない入金があれば「売上を隠していませんか?」と疑われ、理由の不明な出金があれば「架空の経費ではないですか?」と追及されます。日々の記帳を正確に行い、残高のズレを常に把握しておくことが、いざという時に会社を守る盾になるのです。

通帳の残高だけを見て一喜一憂するのは、もうやめにしませんか。
月に一度で構いません。試算表と預金通帳を並べて、その「ズレ」と向き合ってみてください。そこに、あなたの会社をより強く、たくましく成長させるためのヒントが隠されているはずです。