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2025.10.29
第7章 AIで作る「従業員の声」とリアリティ演出

7-1 「偽の声」は逆効果――AI時代だからこそ誠実さが重要

採用広報において「従業員の声」は非常に強い説得力を持ちます。求人票や会社案内で「どんな仲間と働けるのか」「どんな雰囲気の職場なのか」を伝えるとき、実際に働いている人の言葉ほどリアルに響くものはありません。しかし、ここに大きな落とし穴があります。それは「偽の声」を使ってしまうことです。たとえば、従業員にインタビューをしていないのに、AIで自動生成した“従業員の声”をそのまま載せるケース。あるいは、従業員が話していない内容を脚色しすぎて、実際とは異なる体験談のように仕立てるケース。これらは短期的には求人票を華やかに見せるかもしれませんが、長期的には確実に信頼を損ないます。なぜなら、応募者は入社後に必ず「現実」と向き合うからです。求人票に「先輩が丁寧にサポートしてくれる」と書いてあったのに、実際にはOJTが形だけで放置される。あるいは「ワークライフバランスが整っている」と言いつつ、残業が常態化している。そうしたギャップに直面したとき、応募者は「聞いていた話と違う」と感じます。その失望感は、単なる不満にとどまらず、「この会社は嘘をついていた」という不信感に直結します。そして、その不信感は早期退職につながり、採用コストや育成コストを無駄にする結果を招くのです。ここで重要なのは、リアリティは「作るもの」ではなく「引き出すもの」だという考え方です。企業にとって都合の良い“理想の声”をAIで創作するのではなく、実際に働く人から少しずつでも本音を引き出し、それを整理して伝えることが本質です。従業員に長文を書かせる必要はありません。数十文字でも一言でも構いません。その小さな声をAIで文章化すれば、リアルさを保ちつつ読みやすく整えることができます。つまり、AIの役割は「偽の声を作ること」ではなく、「本物の声を伝わりやすく整えること」にあるのです。

また、応募者は完璧な環境を求めているわけではありません。「忙しいときは残業がある」「覚えることが多く最初は大変」というような正直な声は、むしろ信頼を高めます。そのうえで「でも仲間に質問しやすい」「頑張れば必ず評価してもらえる」といった前向きな側面が加われば、リアルさと安心感の両方を伝えられるのです。

AI時代の採用広報では、生成技術を使えば「もっと魅力的に見せる」ことはいくらでも可能です。しかし、誠実さを欠いた情報発信は、応募者に見抜かれる時代でもあります。SNSや口コミサイトを通じて社員の本音が簡単に共有される現代において、虚構の情報はすぐに崩れ去ります。だからこそ、AIを「誠実さを保ちながら整理・表現する道具」として活用することが求められるのです。要するに、「偽の声」は短期的な応募数増加にはつながるかもしれませんが、長期的には離職率の上昇と企業ブランドの失墜をもたらします。AI時代だからこそ必要なのは、誠実さと透明性を基盤としたリアルな情報発信です。本物の声を丁寧に引き出し、それを応募者に伝わりやすく届ける――その姿勢こそが、持続的な採用力を高める最良の方法なのです。

7-2 従業員の負担を最小限に――AIを活用した準備の工夫

「従業員の声」を採用広報に取り入れようとするとき、多くの企業が最初に直面する壁は、従業員の協力をどう得るかという問題です。もちろん、社員のリアルな体験談は大きな説得力を持ちますが、長時間のインタビューをお願いしたり、詳細な文章を作成してもらったりすると、現場の負担は相当なものになります。特に中小企業では、少人数の社員が日々の業務に追われているため、「採用広報のために時間を取ってほしい」と依頼するのは難しいのが現実です。

ここで活用したいのがAIによる事前準備です。AIは質問リストやアンケート形式の雛形を自動で作成するのに非常に適しています。たとえば「新入社員が入社前に不安に思うことは何か」「応募者が知りたい職場の雰囲気はどんな点か」といったテーマを入力すれば、AIはそれをもとに具体的な質問を複数提案してくれます。こうして作られたリストをもとにすれば、従業員へのインタビューは無駄なく効率的に進められるのです。

さらに、質問の形式を工夫することで従業員の負担を大幅に減らすことができます。たとえば、すべて自由記述にしてしまうと答える側の心理的ハードルが高くなり、結局「何を書けばいいのかわからない」となってしまうことがあります。そこで効果的なのが、「はい・いいえ」で答えられる簡単な質問形式です。たとえば「この職場は質問しやすい雰囲気ですか?」「新しい挑戦を後押ししてくれる文化はありますか?」といった設問であれば、数秒で答えることができます。そして、その結果を集計すれば、全体の傾向を示すデータとして活用することができます。

また、短文で答えられる自由記述を取り入れるのも有効です。「この仕事をしていて一番やりがいを感じた瞬間は?」「新人のときに助けられた経験を一言で表すと?」といった問いであれば、数十文字程度のコメントで十分です。こうした一言コメントは短くてもリアリティを感じさせ、読み手に強く響きます。AIに入力して文章化すれば、短文を複数組み合わせて「インタビュー記事風」に編集することも可能です。

AIの強みは、従業員の声を引き出すための「準備」と「編集」を担える点にあります。インタビューをゼロから考えて実施するのではなく、AIが用意した質問をベースにし、従業員はそれに簡単に答えるだけで済む。回答が集まった後も、AIが文章を整理して分かりやすい形にまとめてくれる。こうした仕組みを作れば、従業員の負担は最小限に抑えられつつ、リアルで説得力のある「従業員の声」を生み出せるのです。

採用広報は従業員にとって本業ではありません。だからこそ、彼らの協力を得るには「できるだけ負担をかけない仕組みづくり」が不可欠です。AIをうまく活用すれば、短時間で効率的に情報を集め、企業として伝えたいメッセージへと昇華させることが可能になります。誠実さを保ちながらも、社員の時間を奪わない。この両立を実現できるのが、AI活用の最大の価値なのです。

7-3 アンケートから声を集める――少量でも質を高める方法

「従業員の声」を採用広報に取り入れる際、多くの企業が悩むのは「どうやって社員から協力を得るか」という点です。インタビューのように一対一で長時間話を聞く方法は、確かに深みのある情報を得られますが、現場の社員にとっては大きな負担になります。特に業務が多忙な職場では、「採用広報のために時間を割く余裕がない」という理由から、協力が得にくいことも少なくありません。

そこで有効なのが、アンケート形式で声を集める方法です。アンケートは一人あたりの回答時間が短くて済み、複数の社員から同時に情報を集められるため効率的です。また、質問内容を工夫すれば、自由記述が数十文字程度でもリアルさを感じさせる情報を得ることができます。つまり「少量のデータでも質を高める」ことができるのです。例えば、以下のような簡単な質問を設定するだけでも十分に効果があります。

  • 職場の好きな点は?

  • 仕事を通じて成長を実感した瞬間は?

  • 働きやすさを感じる工夫は?

これらの質問はシンプルですが、回答には社員それぞれの体験や感情がにじみ出ます。たとえば「上司がいつも気にかけてくれる」「新人の意見も積極的に取り入れてくれる」といった一言コメントは、読み手にとって生の声として強く響きます。長文ではなくても、応募者にとっては「その職場で働くイメージ」を具体的に描くためのヒントになります。さらに、アンケートの最大の強みは「多様な視点が得られる」ことです。一人の社員から長いインタビューを取るよりも、10人の社員から短いコメントを集めたほうが、結果として多角的でリアルな職場像を示すことができます。ある人は「福利厚生がしっかりしている」と答え、別の人は「チームワークが良い」と答える。この違いはむしろプラスに働きます。応募者は「いろいろな人がいろいろな魅力を感じている会社」だと理解し、安心感を持つからです。

ここでAIの力を組み合わせれば、短文の集合体をより分かりやすい形に編集することが可能です。例えば、社員から集まった十数個の一言コメントをAIにインプットし、「インタビュー記事風」にまとめさせることができます。すると、「社員Aさんは〇〇にやりがいを感じています」「社員Bさんは△△を高く評価しています」といった形で、複数人の声を一つの記事に自然に整理することができます。これにより、バラバラに見える短文のコメントが、統一感を持ちながらも多様性を失わない表現に変わります。

ただし、アンケートを設計する際には注意点もあります。一つは「質問数を欲張らない」ことです。あまりに多くの質問を設定すると、回答者の負担が大きくなり、かえって回答の質が下がります。目安としては、自由記述を含めて3〜5問程度に絞るのが適切です。もう一つは「具体的な場面を思い出させる質問」を設定することです。「この会社の魅力は何ですか?」という漠然とした問いよりも、「最近嬉しかった出来事は?」「仕事で達成感を覚えた瞬間は?」といった質問の方が答えやすく、リアルなコメントを引き出しやすくなります。

また、アンケートの回答は匿名にするか記名にするかという点も検討が必要です。匿名にすれば率直な声を引き出しやすくなりますが、応募者に紹介するときには「誰の声なのか」が分からず説得力に欠ける場合があります。そのため、社内用は匿名で集めつつ、公開用にまとめるときは「入社3年目の営業担当」など属性情報を付与して紹介するのがおすすめです。実名や顔写真を出さなくても、在籍年数や職種を明示するだけでリアリティは大きく増します。

アンケート形式は「少量の回答でも質を高められる」優れた方法です。シンプルな質問でも従業員の本音は引き出せるし、複数人から短文を集めれば、多様な視点を反映したリアルな職場像を描けます。AIを組み合わせれば、短文のコメントを整理・文章化し、読み手に伝わりやすい形で提供することも容易です。従業員の負担を最小限に抑えながら、応募者に信頼感を与える情報を発信できる――それこそがアンケート活用の最大の価値だと言えるでしょう。

7-4 AIによる文章化――リアルさと読みやすさを両立

アンケートや短時間のインタビューで集めた従業員の声は、素材としては非常に価値があります。しかし、そのまま求人票や会社案内に掲載しようとすると、短文の羅列になってしまい、応募者には伝わりにくいという課題が生じます。そこで力を発揮するのがAIによる文章化です。AIは集めた回答を整理し、読みやすくまとめるだけでなく、リアルさを維持しながら伝わりやすい形に編集してくれます。

まず大切なのは、単なる羅列にせず「記事風」にまとめることです。例えば、社員10人から集めた短文コメントをそのまま並べると、「いい会社なんだろうな」という印象は与えられても、深い共感にはつながりません。一方で、それらをAIにインプットして「一人の社員インタビュー記事のように構成して」と指示すれば、バラバラのコメントが一本のストーリーを持った文章に変わります。冒頭で社員の簡単な紹介があり、入社のきっかけや仕事のやりがい、職場の雰囲気が順序立てて語られる構成にすることで、読み手はまるで実際にその社員と会話しているかのような感覚を得られるのです。

ここで重要なのが「リアリティを損なわない工夫」です。AIは文章を整える際に、つい「きれいすぎる表現」や「典型的なフレーズ」を多用してしまいがちです。そのまま使ってしまうと、応募者にはかえって「作り物っぽい」と映り、信頼を損ねる恐れがあります。したがって、元のコメントの語尾や表現をなるべく残し、少し不完全さを残すことが大切です。たとえば「最初は仕事を覚えるのに苦労しましたけど、先輩がフォローしてくれて今は楽しいです」という一文は、AIが整えれば「先輩のフォローが手厚く、安心して成長できました」と洗練された文章になります。しかし、前者のような生っぽさを意識的に残すことで、リアリティが伝わりやすくなるのです。

また、AIには“ほんの少しの演出”を加えてもらうことも効果的です。例えば、社員が書いた「チームで協力している」という一言コメントを、AIに「具体的なシーンを想像できる文章に整えて」と依頼すると、「忙しいときには部署を超えて助け合うのが当たり前になっています」といった形に変換されます。これは嘘ではなく、社員の短文を読み手に分かりやすく表現し直しただけです。この程度の演出なら、事実を歪めずに応募者の理解を助ける働きをします。

さらに、複数人のコメントを組み合わせることで「一人の声」に厚みを持たせることも可能です。実際には一人の社員がすべてを語ったわけではなくても、「入社当初は不安でしたが、先輩に支えてもらい、今では後輩にアドバイスできるようになりました」という流れは、多くの社員の共通体験として存在します。AIはこうした複数の要素を自然につなげ、ひとつのストーリーに仕立ててくれます。結果として、読み手は「この会社では成長のステップが描ける」と理解できるのです。

ただし、ここでもAIに丸投げするのではなく、人間が最終チェックをすることが欠かせません。応募者に誤解を与えるような過剰な演出が入っていないか、表現が社風に合っているか、ニュアンスが現場の感覚からずれていないか――これらを確認するのは人の役割です。AIはあくまで整理と補助を担う存在であり、最後の「リアルさの担保」は人間の目によって守られるべきです。AIによる文章化の目的は「読みやすさとリアルさの両立」にあります。短文の羅列では伝わらない社員の魅力を、一人のインタビュー記事風に仕立て、応募者が共感しやすい形に整える。その際、元のコメントのリアリティを損なわず、ほんの少しの演出を加えて伝わりやすさを高める。これを実現できれば、従業員の負担を増やさずに、応募者にとって信頼性のある「従業員の声」を届けられるのです。AIは単なる生成ツールではなく、「本物の声をより多くの人に伝えるための翻訳者」として活用するのが最も効果的だと言えるでしょう。

7-5 リアリティ演出の工夫――信頼を生む「編集」の視点

従業員の声を採用広報に取り入れるとき、最も気をつけるべきは「リアリティをいかに保つか」という点です。いくらAIで整理して読みやすくしても、仕上がった文章が「きれいすぎる」「広告っぽすぎる」と感じられてしまえば、応募者はかえって不信感を抱きます。だからこそ編集の段階では、事実を歪めず、自然な息づかいを残す工夫が欠かせません。

まず意識すべきは「加工しすぎない」ことです。AIに任せると、文章は流暢で整ったものになりますが、それが逆に不自然さを生むことがあります。実際の従業員が普段使わないような言い回しや、堅苦しすぎる表現が増えると、応募者は「本当に社員が話した言葉なのか?」と疑いを持ちます。そこで重要なのは、自然な語尾や日常的な言葉遣いを残す編集の視点です。「〜だと思います」「〜してくれて助かりました」といった少しカジュアルな表現は、むしろリアリティを感じさせます。完璧な文章よりも、少しの揺らぎや口語的な要素を残すことで「社員の声らしさ」が伝わるのです。

次に有効なのは、写真や具体的なエピソードと組み合わせることです。文章だけではどうしても抽象的に見えてしまいますが、そこに写真が添えられると一気に説得力が増します。例えば「先輩がいつもサポートしてくれる」というコメントに、実際に先輩と後輩が一緒に作業している写真を合わせれば、読み手はその場面を自然に想像できます。あるいは「チームで協力して忙しい時期を乗り越えた」というコメントなら、集合写真や作業風景を添えることでリアルさが強調されます。エピソードに写真を組み合わせることは、言葉の裏付けとなり、応募者の納得感を高める効果的な方法です。

また、エピソード自体も「大げさに脚色しない」ことが大切です。「入社3か月でプロジェクトリーダーに抜擢された」といった極端な例よりも、「初めて任された仕事でミスをしたが、先輩が一緒にフォローしてくれて乗り越えられた」といった等身大の話のほうが共感を呼びます。応募者は「自分も同じように成長できそうだ」と感じ、安心感を持つのです。編集者の役割は、社員が語った断片的な言葉を整理して筋道をつけることであって、実態以上に脚色することではありません。

さらに、透明性を保つ工夫も欠かせません。AIを活用していることを隠そうとすると、万が一後から発覚したときに「騙された」という印象を与えかねません。しかし「AI支援でまとめた社員インタビューです」と一言添えるだけで、読み手の受け取り方は大きく変わります。応募者は「社員が答えた声をベースにしてAIで文章にしたのだな」と理解し、安心して読めるのです。近年はAIの利用が一般化しているからこそ、あえてオープンにすることが信頼を生むポイントになります。

要するに、リアリティを高める編集とは「自然さを残す」「写真や具体例で裏付ける」「透明性を示す」の三点に集約されます。完璧に整えられた文章ではなく、少し不揃いな人間味を意識的に残すこと。社員の言葉をエピソードと写真で補強し、応募者が自分の姿を重ねられるようにすること。そして最後に、AIを活用している事実を隠さず示すこと。これらを組み合わせることで、従業員の声は単なる情報を超え、企業への信頼感を生む強力なコンテンツへと昇華します。

採用広報は、企業を「良く見せる」ためのものではなく、応募者との「相互理解」を深めるためのものです。リアリティを編集によって演出するというと、一見矛盾して聞こえるかもしれません。しかし、編集とは嘘を作ることではなく、伝えたい事実を最も誠実に、そしてわかりやすく伝えるための工夫です。AIの力を借りながらも、最終的に信頼を守るのは人間の編集の視点です。この姿勢を持てるかどうかが、採用広報における成果を左右すると言えるでしょう。