『虹色のチョーク 働く幸せを実現した町工場の奇跡』
小松成美(著)
幻冬舎文庫 (2020/4/8) 649円
【感想】
小松氏は毎日広告社へ入社後、放送局勤務を経て作家に転身。人物ルポルタージュ、スポーツノンフィクション等の執筆を行っています。本書は、日本で“日本でいちばん大切にしたい会社”と呼ばれる日本理化学工業に取材を重ねて執筆された作品です。坂本光司先生の著書がきっかけで有名になった会社で、従業員の約7割が知的障がい者です。
本書の特徴は、理念を語るだけでなく、現場での工夫を具体的に示している点です。作業工程を分解し、道具を調整し、評価やフィードバックを仕組み化する。こうした改善によって、障がいのある社員でも安定して品質を保てる生産体制を築き上げています。さらに市場環境の変化に合わせて、新商品「キットパス」などを開発し、理念と事業の両立を図ってきました。
「働く幸せ」を実感させる一冊として高く評価される傾向にある本書ですが、同時に“美談”に終わらせず、現場には長年にわたる投資や設計努力が積み重ねられていることを忘れてはいけません。日本理化学工業では、障がい者を単なる雇用対象ではなく「重要な戦力」と捉え、どうすれば力を発揮できるかを試行錯誤し続けてきました。作業の流れを一人ひとりに合わせて整備し、適切な役割を与えることで、社員は「必要とされている」という実感を得ています。そうした姿勢こそが、経営と福祉をつなぐ実務的なヒントとなり、多くの読者の心を打っています。
まとめると、『虹色のチョーク』は、人が働く意味を問い直すと同時に、仕組みと工夫で多様性を力に変える実例を示す一冊です。理念を現実に落とし込む「設計図」として、多くの経営者や現場に学びを与え、読者に“働くことの本質”を考えさせてくれます。
【以下、引用】
住職は「人としての幸せについて教えましょう」と言ってこう語り出しました。この四つが、人間の究極の幸せである、と
曰く、物やお金をもらうことが人としての幸せではない。
人に愛されること
人に褒められること
人の役に立つこと
人から必要とされること
人に愛されることは、施設にいても家にいても感じることができるでしょう。けれど、人に褒められ、役に立ち、必要とされることは、働くことで得られるのですよ。つまり、その人たちは働くことによって幸せを感じているのです。施設にいてゆっくり過ごすことが幸せではないんですよ、と。人に求められ、役に立つという喜びがある。住職のお話を聞いて、そのことに気づいたのです。まさに、目からうろこが落ちる思いでした。
私は、この先チョーク屋では大きな会社になれないのなら、一人でも多くの障がい者を雇う会社にしようと思いました。