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2025.11.10
社長、会社の金庫にいくらあれば安心ですか?「月商の〇か月分」という神話
「先生、結局のところ、手元に現金はいくらあれば安心なんでしょうか?」

これは、私が多くの経営者の方から受ける質問ナンバーワンかもしれません。よく「月商の3か月分」なんて言われますよね。でも、本当にそうでしょうか?月商500万円の飲食店と、同じく月商500万円の町工場。この2社で「安心できる現金の額」が同じはずがありません。

なぜなら、お金の出入りするスピードが全く違うからです。
今回は、巷で言われる「月商〇か月分」という目安に頼らず、あなたの会社にとっての「本当に安心できる現金の額」を見つけ出す方法を、財務諸表の数字を使いながら、分かりやすく解説していきます。会計が苦手な社長こそ、読んでみてください。会社の体力測定、一緒にやってみましょう。

なぜ「月商」基準では危ないのか?見るべきは「お金のサイクル」

まず、なぜ「月商」を基準にするのが危ないのか。答えは、あなたの会社の**貸借対照表(B/S)**に隠されています。

例えば、ラーメン屋さんのような飲食店。カード払いも多くなりましたが、お客様は現金でその場で支払ってくれるケースも、まだまだあります。材料の仕入れ代金の支払いは月末締め翌月末払いだったりします。つまり、現金で受け取るとお金が先に入ってきて、支払いは後。こういう商売は、比較的お金が回りやすいと言えます。

一方で、部品を作る町工場はどうでしょう。材料を先に仕入れて、製品を作り、納品します。請求書を送り、入金があるのは早くて翌月末、場合によっては翌々月末なんてこともザラです。最近はだいぶ減ってきましたが、手形というやり方もあり、3か月後、6か月後なんてこともあります。この間、従業員の給料や工場の家賃は待ってくれません。先にお金が出ていき、入ってくるのはずっと後。

この「売った代金が、現金として入ってくるまでの期間」を測るのが**「売上債権回転期間」**です。難しく聞こえますが、要は「ツケ」がどれくらい溜まっているか、ということです。貸借対照表の「売掛金」を月商で割ってみてください。

`売上債権回転期間(簡易版) = 売掛金 ÷ 月商`

この数字が「2.0」なら、売上から入金まで平均2か月かかる、ということです。この期間が長い会社ほど、多くの手元資金が必要になります。あなたの会社は何か月でしたか?「月商3か月分」という一つのモノサシで全業種を測るのが、いかに乱暴かお分かりいただけると思います。

自社の「安心ライン」を見つける、たった2つのステップ

では、どうやって自社に合った現金の額を見つけるのか。難しくありません。必要なのは**損益計算書(P/L)貸借対照表(B/S)**です。

ステップ1:毎月必ず出ていく「固定費」を把握する

まずは、あなたの会社の「呼吸しているだけでかかるコスト」を計算します。これは、たとえ売上がゼロになっても支払わなければならないお金のこと。損益計算書を見て、以下の項目を抜き出して合計してみてください。

  • 人件費(給料、社会保険料)

  • 地代家賃

  • リース料

  • 水道光熱費や通信費の基本料金など

例えば、これが合計で毎月150万円だったとします。これがあなたの会社が生き延びるために最低限必要なコストです。

ステップ2:「耐える期間」を掛け算する

次に、コロナ禍や急なトラブルで売上が激減した時、何カ月間なら耐えれるかを決めます。これは社長の決断です。ひとまず「3か月」で考えてみましょう。

`固定費 150万円 × 3か月 = 450万円`

これが、あなたの会社にとっての**「最低限のセーフティライン」**です。
もし、もう少し余裕を持ちたい、銀行からの信頼も得たいと考えるなら「6か月」を目指しましょう。

`固定費 150万円 × 6か月 = 900万円`

これが**「安心ライン」**の一つの目安です。どうでしょう?「月商の〇か月分」より、ずっと具体的で、自社の実態に合っていると思いませんか?先ほどの「売上債権回転期間」が長い会社は、この安心ラインに、さらに運転資金(売掛金+在庫-買掛金)の1~2か月分を上乗せしておくと、より盤石になります。

その「現金」、銀行はこう見ている

こうして確保した手元現金は、単なるお守りではありません。金融機関との付き合いにおいても、強力な武器になります。

金融機関(銀行)に対しては、最高の交渉材料です。
銀行が融資の際に何より気にするのは「この会社は、ちゃんと返済できる体力があるか?」という点です。貸借対照表の「現預金」の残高は、その最も分かりやすい指標。
「うちは突発的な事態に備えて、固定費の6か月分の現金を常に確保しています」と、その数字の根拠を説明できればどうでしょう。「この社長は、きちんと数字で経営を考えているな」と、信頼度は格段に上がります。これは、いざという時の融資交渉で非常に有利に働きます。

中小零細企業は各会社の個性が強くでます。それは商売を反映するお金にも言えます。ですので、「月商の〇か月分」という一般論から卒業し、自社の損益計算書と貸借対照表を眺めてみてください。そこには、あなたの会社だけに必要な「安心できる現金の額」の答えが必ず書かれています。数字は、あなたの経営の羅針盤です。まずは固定費の把握から、ぜひ始めてみてください。